《MUMEI》
大切なバイク。
うーん。もう店に着いちゃったよ。

憐の家なんて緊張するなぁ…。

手土産とか持ってきた方が良かったかなぁ?


…って、鍵取りにきただけなんだから。

意識しすぎだよね。


鍵もらってすぐ帰るんだから…。




よしっ。行こ。




店の裏にまわると階段があった。



こんなとこに階段なんてあったんだ…。




よしっ。




『ピンポーン♪』




ガチャッ


『…おう。瑠伊。お前、遅かったな。』




『そう?そんな事ないよ。』




憐はお店にいるいつもの雰囲気とは全く違った。
髪の毛はボサボサで上下スエット。
メガネまでかけて、まるで別人のようだった。

そして、また単純な私は、このギャップに完璧ヤラれた…。




『…あっ。バイクありがと。鍵もらってくね。』




『…あぁ。お前、なんか急いでんの?』




『…ううん。何にも急いでないよ。』




『…あそっ。なら、あがってけば?汚ねぇけどコーヒーくらい入れるし。』




憐は、私が緊張してるのには全く気付かずに、さらっとそう言うと奥の部屋に行ってしまった…。




『…じゃちょっとだけ。おじゃまします。』




部屋にあがると憐はベットにあぐらをかいてタバコを吸っていた。




『…へえー。憐ってタバコ吸うんだ?』




『…おぉ。知らなかったっけ?』




『うん。お店では吸わないじゃん。』




『あぁ。まぁ〜、客商売だしな。タバコの煙イヤな奴もいるだろ?』




『…憐はえらいね。』




『そうか?』




そう言って立ち上がった憐は、くわえタバコのまま慣れた手つきでコーヒーを入れてくれた。




『砂糖もミルクもねぇけど平気?』




『うん。ありがと。』



『ねぇ、憐。どうしてバイク持ってきてくれたの?』




『…あぁあれな。店閉めてゴミ捨てに行ったらお前のバイク、キーささったまんま置いてあったから…』




『…え?…うそ?ヤダ。私、抜くの忘れてた。』




『だろ?…で、キー預かっとこうかと思ったけどお前朝、取りに来るだろうし渡せねぇと困るだろうなぁ…って。』



『それでわざわざ?』




『…まぁな。でも結局、鍵ポストに入れ忘れて取りに来さしちまったけどな。』



『…私のウチなんで知ってんの?』




『…だってお前、前に言ってたじゃん。住んでるマンションの真ん前にコンビニが出来たって。便利だけど自分の部屋は2階の右端だから変な人がよじ登ってきたら怖いって。…覚えてねぇの?』




『…覚えてるよ。…ってまさか、その話覚えてて探してくれたの?』




『…あぁ。探したっつってもだいだいの場所分かってたし。最近出来たコンビニあそこだけだし、真ん前にマンションあるの知ってたし…。』




『あははっ。憐、凄い。その記憶力と推理力は探偵みたいだね。』




『…そうか?』




って言いながら照れてた憐は、あの無愛想な奴とは思えないくらいのクシャっとした笑顔だった。




『本当ありがと。憐が気付いてくれなかったらバイク盗まれてたかもね。』




『気をつけろよな。あれ、かなり大切なバイクなんだろ?』




『…え?うん。…私、そんな話もしたっけぇ?』




『…前に言ってたぞ。あのバイクが世界で一番大切だって。何があっても手放さないし、あのバイクじゃなきゃダメなんだって。そういや〜理由は聞いてねぇわ。』




『…そっか。ダメだね私。酔うと何でもしゃべっちゃうんだから…。』




『なぁ…。前から気になってたんだけどさ、なんであのバイクにそんなこだわるわけ?』




憐のストレートな質問は、私を3年前にタイムスリップさせてしまった…。

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