《MUMEI》

「見つかったからまぁいいや♪時間までに戻ってね〜。」

『うん、ごめんね。遅れないようにするね!』


そう言うと結衣ちゃんは戻って行った。

あのポラだけど、覗き穴とレンズの位置が左右にずれてるからその分をずらして撮らなきゃいけないのだ。


「なんか悪い事したな。」

『んーん、稲田は気にしないで。』

「…お前さ、もし篠崎に…。」


言いたい事はわかる。


『実は好きな人が居たらって?』

「…あぁ。」

『…それがね、たぶんへーきだと思うんだ。何も望んでないし、居るんならしょうがないじゃん。』

「なんだそれ?お人好しだろそんなの。」

『…そうだね。』

「悔しいとか悲しいとかない訳?自分にもあんな揺さぶりかけてってムカつかないの?」

『ゼロではないけど…だって、自分が勝手に惚れてるんだよ?そんな押し付けがましいの許される訳ないでしょ。それに、篠崎は誰にでも優しいんだよ?』

「お前おかしい。傷付かない自信あるの?」

『…。』


それは…。


「なぁ。」

『…なんにもしない自分のせいだし。て言うか、こんなもしも論で熱くならないでよ…。』

「…。」


稲田の言う事はいちいち正しい。

だから、きっとその時が来たらあたしは悲しむんだ。

何も欲しなければ傷付かない、怖くない。


「…一葉。迎えに来た。」


『篠崎…。』

「…。」


「わりぃ。800回くらい断ったんだけどなぁ、さつきと小池が801回言ってくるから…。時間だぞ。」


でも、なんだろう…


『うん…。行こう?稲田。』

「…おぅ。」


「…。」


昔、大切な何かを失ったような錯覚を覚える。

モノか…ヒトか。


『じゃあね、稲田。』

「…またな、大島。」


「…。」


両方か。


「なぁ一葉。俺は味方だから。」

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