《MUMEI》

車から降りて、私は咲子さんのお店を指差した。


「だって、『クローバー』は喫茶店ですよ?!」


そこにあったのは、記憶の中と少しも変わらない、レンガ風の外観の、落ち着いた印象のお店だった。


「まぁまぁ、とりあえず、部屋に案内するからね?」

咲子さんは、私の荷物を一つ持つと、裏にある階段から、自宅部分の二階の玄関に向かった。


ちなみに、建物は三階建てで、一階がお店・二階三階が自宅になっていた。


「あぁ、はい!」


何が何だかわからないまま、私はキャリーバックを持って、慌てて咲子さんを追い掛けた。


玄関の表札には、四人分の名前が書かれていた。


まず、咲子さんの旦那様の工藤 衛(くどう まもる)さん。


それから、咲子さんと…


「お邪魔しま…」


「「あ〜、蝶子ちゃん来た〜!」」


バタバタと玄関にやってきた


「やこちゃん、せいこちゃん、久しぶり」


今月、十歳になる、双子のいとこに、私は笑顔を向けた。


この二人の名前は、旧暦の三月―弥生からきている。

最初衛さんは、それぞれ、弥子・生子と漢字で名付けたが、咲子さんから『生子は可哀想!』とダメ出しされ、平仮名になった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫