《MUMEI》 アドリブノ結末「まったく……台本通りにやってくれないと困るよ、ふたりとも…」 「すみません……」 「今日はもう上がっていいよ。またふたりのスケジュールが合う時に呼ぶから」 「ハイ……。本当にすみませんでした」 やってしまった。有理に向ける顔がない。 「流理さん、ちょっとだけいいですか?」 小声で環が聞いてきた。何の話かは考えなくてもわかる。 「……環さん…さっきはすみませんでした。アドリブまでさせてしまって…」 「いいえ……いいんですよ。それに悪いのは私なんですから」 「え……?」 「違うんですか?だって流理さん、楽屋出てから変でしたから」 流理は決心した。聞いてみたい。環の本心を。 「環さん……中田さん(環のマネージャー)が言ってたことだけど…オレと……オレとキスするの嫌だったんですか…?」 「………え?」 「撮影中にオレが環さんの身体を引き寄せたとき……環さんが小さく悲鳴を上げましたよね?あれは台本にないセリフでした。だからオレにはあれが環さんの心の声に聞こえてしまったんです。それで…」 「私…言いましたよね?撮影中のアドリブ…。『唇から気持ちが伝わってくる…そう、それこそ口移しのように』って。あれ、事実を言っただけなんですよ」 前へ |次へ |
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