《MUMEI》
電話
「おかえり流理。…で?どうだった?彼女の唇の味は?」

「ゆ、有理…帰ってたんだ?もう用事は終わったんだ?」

「そんなに時間のかかる用じゃなかったからな。つ一か話そらすなよ」

「べ、別にもう味とか…覚えてないよっ」

「初めてのキスの味を忘れるヤツがどこにいるんだよ」

――!…あれ?

「じゃあ有理も?」

有理はしまったという顔をした。

「チィッ!墓穴掘っちまった。もういい!」

流理は笑った。有理のこういう姿は久しぶりに見たから。

――ルルルルルルッ

「電話?マネージャーかな」

有理は電話に出る。

『もしもし!有希、監督があのアドリブそのまま使うって言ってるぞ!撮り直し無しだ』

「アドリブ………?」

電話をとった有理には、アドリブとか言われても何のことだかわからない。そして有理のつぶやきを聞いた流理は慌てた。

有理ならよくわからなくてもうまく切り抜けられる。今のうちに部屋へ……。

「流理〜♪アドリブって何かな?」

ドアに鍵かけてあるから有理は中に入ってこれない。

「聞かないでくれ!」

「ははっ!どうせ聞かなくてもこの目で見ることになるもんな。流理、今日はお疲れ〜♪」

有理はいちいちムカつくことしか言わない。

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