《MUMEI》
最悪
私は、電動自転車なのに、思い切りペダルをこいで、坂を駆け上がり、『クローバー』の駐車場に戻ってきた。


(しまった)


自転車を停めてから、私は初めて弁当代をもらい忘れた事に、気が付いた。


(そう言えば、雅彦が何か叫んでたっけ…)


無視したけれど、きっとこの事を言っていたんだと思った。


(どうしよう)


もう一度、『シューズクラブ』に戻る気持ちにはとてもなれなかった。


それに…


グ〜!


私の胃が、『限界だ』と叫んでいた。


携帯で時間を確認すると、時刻は午後三時になろうとしていた。


(いいや、もう!)


私は開き直って、裏口から『クローバー』の厨房に入った。


「ただいま戻りました」


「おかえりなさい。
どうだった? 『シューズクラブ』は?」


「最悪です! すみません、後で話しますが、先に…」


グ〜!


私は、正直過ぎる自分のお腹を押さえた。


咲子さんは、笑いながら、厨房の冷蔵庫からサンドイッチの入ったお皿を取り出した。


「今はお客さんいないから、お店のカウンターで食べていいわよ」


「すみません」


私は赤くなりながら、お皿を受け取り、そそくさと移動した

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