《MUMEI》

「なんか……、今日買い物帰りに呼び止められて、俺の祖母だって人が引き取りたいって言ってた。
俺は母さんと不倫関係にあった人との間に産まれた不義の子供だって……証拠もあった。

その人と母さんが若い時の写真。
母さんが好きだった蓮華の花畑に囲まれて……!俺によく似たくせ毛の……」

七生は一つ一つその時のことを確かめるように呟く。

「おじさんには確かめた?」

今、七生から目を離すことは出来ない。同時に見放すみたいだからだ。

「……うん。
それなら話は早いって、いずれは結婚して柊荘から引っ越すつもりだったから大人しく貰われて行けって…………!」

七生、錯乱したんだ。
いつもだったら喧嘩でもなんでもしておじさんと和解したのに……。

「なな……」

駄目だ、きっともう俺の声は届いてない。

「父さんは母さんが好きだったから俺を育てたんだ。

たまに思っていた。
父さんは父さんじゃなくて預かってくれていたんじゃないかって。

……だから、俺は捨てられる。

母さんとの思い出があるあの柊荘と一緒に……。」

柊荘は物心つく前に亡くなった七生の母親への唯一の思い出だ。
七生と母親はいつも柊荘の中で幸せそうに笑う。

それを捨てて結婚だなんて……おじさんも参っているのかもしれない。

七生もおじさんも仏壇の写真を見て淋しげだったことも知っている。
七生が俺に甘えて母親への愛を求めてきたように、おじさんも付き合っている人に何かを見いだせたのかもしれない。

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