《MUMEI》
エリカの物語 3
カードに封印された守護生命体。
彼らは初代フォン ヴェックであるウルリッヒが造り出した人工生命体であり、フォン ヴェックの一族を守るために存在している。
黒の剣士。
漆黒の長剣を手に提げ、革の鎧に身を包んでいる。
鎧に覆われていない手足と頭部には、闇色の包帯が巻かれていた。
包帯の隙間から金色の瞳と、傷痕のように赤く裂けた口が見える。
守護生命体は、自らの意思をもたない。
彼らの意識は、わたしたちの意識に繋がっている。
だから、黒の剣士の瞳に映るものはわたしにも見ることができた。
そして、彼らの手足の感覚もわたしに繋がっている。
黒の剣士の胸には、傷痕が残っていた。
空で嘲笑う赤い三日月のような。
それはわたしに死をもたらした傷。
フェリシアンの操る金の乗り手に刺し貫かれた。
その痛みが未だに残り、わたしに伝えられている。
狼が呟くように言った。
「同じことの繰り返しだよ、フォン ヴェックの娘」
「判ってないね」
黒の剣士の姿が一瞬消える。
金属音が響き、わたしたちを包囲していた兵士の構える銃が砕かれた。
狼が叫ぶ。
「フェリシアン シャルル!」
わたしの頭上に、巨大な獣が出現する。
日出男がわたしを抱き抱えて後ろへ跳び、獣に踏み殺されるのを防いだ。
フェリシアンの操る金の乗り手。
巨大な獣が曳く戦車には、金色の鎧を纏った騎士が立つ。
獣は猛禽の頭と翼を持ち、獅子の身体を持つ獣グリフォン。そのグリフォンの嘴がわたしに襲い掛かる。
日出男が軍刀でその嘴を弾く。獣は怒りの叫びをあげた。
黄金の騎士は手にした鞭をふりあげる。
短剣がその先端についた鞭。
かつてわたしの剣士を貫いた剣を付けたその鞭を、振り下ろす。
空気と音を引き裂きながら剣は、わたしの胸めがけて飛来する。
わたしの目の前に再び出現した黒の剣士が、その剣を弾いた。
狼が呟く。
「クレール ド カリオストロ。終わらせるぞ」
「判っています」
クレールはカードを手に叫ぶ。

「古の契約に基づき汝を召喚する。キング オブ エメラルド」

緑の王。
そして森の王であるバフォメット。
半獣半神の守護生命体が姿を現す。

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