《MUMEI》 あなたの話さて。 エリカの話は、ここで一旦おしまい。 本の中へ呼び込まれたわたしの話もあとでするとして。 そろそろ、あなたの話をしましょう。 ああ。 愛しい、愛おしい。 あなたの話。 わたしのあなたへの愛は、きっと過剰なんだ。 過剰な愛は、絶望に似ている。 でも。 絶望の果てよりもっと遠く迄。 絶望の向こうにある死よりも、もっと深く。 そして死の回りに渦巻く哀しみや憎しみより、さらに激しく。 わたしは、あなたを求めている。 わたしは、あなたを愛している。 愛して、アイシテ、あいしている。 子供のころ。 本当に幼かったころ。 あなたとわたしは、一つだった。 同じ夢を見て同じことを考えて。 喜びや哀しみもわたしたちは、一つのものとして味わっていた。 あなたが、あの残酷な世界の刻印を刻まれるまで。 世界はあなたを選んだ。 わたしではなく。 わたしたちはいつものように、並んで夕日を見つめていた。 金色に燃え上がるそらを。 そして渦巻く赤い炎のような太陽を。 でも。 あなただけには見えた。 水晶の迷宮が。狂気の渦巻く虹色の光に彩られ、見るものの精神を粉砕する巨大な音と光の魔城。 そしてわたしは、ひとつになった。 楽園から放逐されたエヴァのように幸福なときから切り離され。 さて。 わたしが本の中に消え、死者となってから一月後。 あなたは、アリスと共にいた。 前へ |次へ |
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