《MUMEI》
夜の『クローバー』
双子の質問を何とかかわすこと、三十分。


「ごちそうさまでした」


私はひと足先に、『クローバー』に戻った。


『クローバー』は、夜になると


喫茶店から


カラオケスナックに変わる。


まず、照明を控え目にする。


それから、くまのぬいぐるみを椅子ごと倉庫に避難させる。


テーブルクロスも回収。


お客様がカラオケをしていない時の店内のBGMは、ボーカル無しの洋楽のピアノ演奏を流す。


夜の『クローバー』は、大人達の空間だった。


『クローバー』は、駅から少し距離があるから、客層は、近くの電力会社の支社の社員と、商店街の人達が中心だった。


夜のメニューは、基本的に厨房の、今は私のお任せになる。


客から値段と、簡単な好みを聞くだけで、私は客を満足させる料理を作らなければならない。


これは、プレッシャーもかかるが、腕の見せどころでもあった。


(さぁ、来いお客!)


私は厨房で、咲子さんはカウンターで、お客様を待っていた。


「こんばんは〜!」
「こんばんは」


「あら、いらっしゃい」


(…げ)


夜のお客様第1号は、『ロコモコ』君と『さばの塩焼き』君だった。

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