《MUMEI》

俺は比較的よくやったと思う。品行方正で、物憂げに俯いて静かに棺を見つめる。
完全に真面目になった俺を演じている。
誰もが何かするだろうと俺を疑うので、期待を裏切ってやった。

「あの、私……」

「知ってますよ、昭一郎の奥さん。」

話し掛けてくれるな。
面倒だ。
営業用の笑みで先の言葉を掻き消した。

「お幸せに。」

幸せだなんて、昭一郎には似合わないというのに、皮肉だ。

棺を見ても何も感じない。


「お前もか?」

昭一郎、〈も〉って何だよ……。

俺達は兄弟で同じ女を愛し、そして同じ男と寝て…………体を重ねた。

下らない冗談を飛ばしたりするような兄弟では無かったが繋がりはあった、レイを介して互いを見ていた。
レイがいなければ今もはっきりと見ない。

レイは昭一郎しか好きじゃなかった。
昭一郎が結婚するから自分もするとレイは言い出したのかもしれない。

俺が泣かないのはもうレイはいないという実感が湧かないのと、レイの葬儀を壊したくないからだ。

最後までレイを選ばなかった昭一郎と同じにするな。
俺は違う、昭一郎みたいにレイを忘れようと女と結婚したりなんかしない。

「昭一郎……」



レイ、ごめん

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