《MUMEI》

ただし。


仲は良かったが、付き合った事は一度も無かった。


俊彦にとって、私は『妹』だったから。


それに、俊彦は、中学に上がった頃から急によそよそしくなり、私と距離をおくようになった。


私は、振り向いてほしくて必死だった。


自分で言うのも何だけど、同年代の中では、大人っぽい方だったと思う。


でも


今は、付き合わなくて正解だったと思う。


(だって…)


あいつは、変態だから。


『あの男』と同じ。


「…蝶子ちゃん?」


(いけない!)


私はハッとした。


…つい昔の思い出に浸ってしまった。


「…すみません。

昔の事、思い出しちゃって」


「…大丈夫?」


咲子さんの表情が曇った。

咲子さんは、知っているから。


私が、俊彦が嫌いになるきっかけになった


『あの事件』を。


「平気です」


あれから、もう五年も経ったから。


「あのね。余計なお世話かもしれないけど、私は蝶子ちゃんと俊彦君に仲直りしてほしいの」


(それは無理)


即答したかったけれど、咲子さんが悲しげな顔をしていたから、私は何も言えなかった。


「行ってきます」


「気を付けて」

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