《MUMEI》

「へぇ〜」


和馬は私の足をジロジロ見てきた。


私は今日も太めのジーンズを履いていた。


「あんまり見ないの!」


「あんたもね」


「うっ!」


俊彦の視線が常に私の足にあることは、わかっていた。

「とにかく、これからは、名前で呼んでね」


「そんな大胆な…」


何故か照れる俊彦。


「…名字で」


「えぇ?!」


(当たり前)


名前で呼び合うなんて真似はするつもりはない。


「私も『村居さん』て呼ぶから」


「二人いるじゃん!」


俊彦が抗議した。


「雅彦は雅彦だから」


又は、雅君だ。


「呼んだ? あ、蝶子ちゃん、いらっしゃい。
今日予約入ってるよね?」
「うん」


咲子さんがしたと言っていた。


「スニーカー担当、俺だからよろしくね」

「こちらこそ」


(良かった)


雅彦が担当なら、安心だ。

「ま〜さ〜ひ〜こ〜!」

「何だよ兄貴?」


「俺と替われ!」


(えぇ?!)


それは困る。


「無理だよ。兄貴、予約入ってるじゃん」


「交代! 交代!」


「出来るわけないだろ? お前の今日の客、フォーマルじゃん。

ほらほら、仕事行くぞ」

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