《MUMEI》
担当
俊彦は和馬に引きずられて言った。


「…とりあえず、上がって」


「うん」


私はやっと裏口から事務所に入った。


「じゃ、行こうか」


雅彦が私に手を差し出した。


「え? ここでいいよ?」


私は断ったが


「駄目。蝶子ちゃんは今日はお客様なんだから」


雅彦が、私の手を掴んだ。

昔より、ずっと大きい手だった。


「さ、行こう」


雅彦は私を店内に導いた。

「新規の伊東様、ご来店です」


「「「いらっしゃいませ!ようこそ『シューズクラブ』へ!」」」


どこかのファミレスみたいなノリの挨拶に圧倒されながら、私は雅彦の後について行った。


「ちょっと、俊彦?」

「あ、すみません」


私達を凝視していた俊彦は、隣の女性に怒られていた。


「こちらが、スニーカーコーナーになります」


雅彦が、私を三つあるうちの一つのソファーセットに案内し、座るよう促した。

私は、フカフカのソファーに腰かけた。


「では、少々お待ち下さい」


そう言って、雅彦は倉庫に消えた。


その間、私は誰とも目を合わせないように、うつ向いていた。


(誰も来ないでよ!)


必死に無言の圧力をかけた

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