《MUMEI》
転校
私はなんとなく、表情で人の心を読むことができた。

この先生の第一印象は、
『なんで、こんな時期に?・・・幼い顔して前の学校で問題でも起こしたか?』
といったところだ。
私はそんな先生の疑いを晴らすように、純粋そうな笑顔で、よろしくお願いします。とお辞儀をした。


夏休み・・・
夕方だったせいか、部活動に来ている生徒も疎らだ。
見慣れない制服に、ひそひそ声で話す女生徒たちとすれ違う。
「転入生かな?」

『そうだよ。』と心の中でつぶやいた。

「一応、3ーDの教室だけ案内しておくから。他の教室は二学期始まったら、クラスのやつに聞いて。」
「はい。」
めんどくさそうに言われた。

長い廊下を来月から担任になるであろう、先生と無言で歩いていた。


「広崎奏・・・。前の学校は、私立の女子中だったんだって。」
いきなりフルネームで呼ばれ、どきっとした。
沈黙を破って、問い掛けられる。
「あ、はい。」
「なんでこんな時期に、転校して来た?」

そんな聞いちゃいけなそうなことを、直球で聞いてくる人は初めてで、少し驚いた。なんだか『家庭の事情』という、曖昧な回答も、通じなそうで。

「父の会社が倒産して、私立の学費を払って行けなくなったんです。」
包み隠さず話した。

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