《MUMEI》

「そっち、軽量タイプ」


「じゃあ、そっちは?」


私は軽量タイプのスニーカーを持ったまま、残りの一足を指差した。


「こっちは、防水タイプ。底もしっかりしてて、滑りにくいよ。

生地も丈夫だし」


(う〜ん、迷うなぁ)


軽量タイプは、軽くて履きやすそうだし。

防水タイプは、少し滑りやすい厨房で履くのによさそうな気がした。


「値段は?」


「軽量タイプが2990円で、防水タイプが3990円。
あ、税込だよ」


咲子さんから受け取ったのは、五千円だから、どちらも予算内だ。


「う〜ん」


(そうだ)


「ねぇ雅彦。どっちが長持ちする?」


私はできるだけ、『シューズクラブ』に、俊彦の近くに来たく無かった。


「そんなに兄貴に会いたくないの?」


雅彦は、小声で訊いてきた。


私が頷くと、雅彦は、防水タイプを指差した。


「じゃあ、それで」


「わかった。ちょっと、…ごめんね」


そう言って、雅彦は


私の前にひざまずいた。


「ま、雅彦?」


(何するの?)


「ごめんね。ここでは、必ず店員が、お客様に靴を履かせる事になってるから」

「必要無いよ!」

「どうしても駄目?」

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