《MUMEI》
妖しい?
(う…)


雅彦は、私を見上げて捨てられた子犬のような顔をした。


ふと、店内を見ると


女性客は、当たり前のように店員に靴を履かせてもらっていた。


(ここで、私が断ると、雅彦が困るよね)


それに…


私は、雅彦の、この顔には弱かった。


体格が変わっても、やっぱり雅彦は雅彦だった。


今は目線が近いので、私は余計に昔と同じような感覚を覚えた。


「…いいよ」


(まぁ、いいか。雅彦だし)

私は、雅彦に任せる事にした。


「ごめんね」


雅彦はそっと私の足に触れ、靴を脱がせた。


そして、先ほど選んだスニーカーを私に履かせる。


「きつかったら、言ってね」

「うん」


雅彦は、大きな手で、スニーカーに紐を通し始めた。

雅彦の指は、太くて、ゴツゴツした男らしい指だ。


ちょっと不器用な雅彦は、無言で一生懸命紐を通していく。


「痛っ…」


「あ、ごめん…きつかった?」


「ちょっと…」


「この位?」


「うん」


「じゃ、結ぶね」


「そこはうまいんだ」


「練習したからね」


「そっか…えらいね」


雅彦は不器用なりに頑張ったんだろうなぁと思った。

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