《MUMEI》

(でも、ブラックはきついよね)


私は昔雅彦と一緒によく『クローバー』に行ったが、雅彦は、いつもコーヒーに砂糖とミルクを入れていた。


私は


自分のコーヒーに付いていた、砂糖とミルクを雅彦のコーヒーに入れた。


「今日はいいでしょ?
私がお客なんだから」


幼馴染みの私にまで、キャラを作る必要は無いと思った。


「ありがとう」


(そうだ)


私は、雅彦が大の甘党で、ケーキが大好きだった事を思い出した。


きっと、このケーキは、お客用だから、雅彦の分は無い。


だから


「雅彦。ケーキも食べる?」


訊いてみた。


「え? …あ、いや…」


雅彦の目が一瞬輝いたのを、私は見逃さ無かった。


(要するに、雅彦がすすんで食べなきゃいいのよね)

それなら、イメージも崩れないと思った。


だから、私はクラシックショコラ一口分をフォークに乗せて、満面の笑みで雅彦に向かって言った。


「はい、あ〜ん」


「へ? 」


(今だ!)


ポカンと開いた雅彦の口に、私はケーキを入れた。


雅彦は驚いた顔をして


口をモゴモゴと動かし


幸せそうな顔で、飲み込んだ。


「よしよし」

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