《MUMEI》
言い訳。
気が付くと…紙袋を握りしめたまま、コウタのウチまで走っていた。




『コウタッッ!コウタッッ!』



私は近所迷惑も考えず、コウタの家のシャッターを叩いた。




コウタの家は運送屋だから、従業員も住み込みで働いている。




一斉に、部屋の電気がパチパチパチっと、点いて中から不機嫌そうに出てきたおじさんの顔を見て、私はようやく素に戻った…。




『…あっ。すいません。こんな夜分遅くに…。コウタ…。コウタくんはいらっしゃいますか?』




『おい。コウタ!お前に客だぞ。』




おじさんの怒鳴り声で、ようやく起きたのか…。
コウタは眠そうに目を擦りながら出てきた。




『…ん?…瑠伊?』




寝ぼけ顔のコウタを見て、おじさんは意地悪そうに言った。



『コウタ。彼女か?別れ話なら他でやってくれよ。俺、明日朝早ぇんだ。』




『…そっ。そんなんじゃねぇよ。俺、ちょっと出てくるから。』




コウタは真っ赤になって、そう言うと財布をポケットに入れ、私の手を引っ張り走りだした。




近くの公園に着き、慌てて手を離すコウタ。




『…悪りぃ。』




『…ううん。私の方こそゴメン。こんな遅くに…。』



『…いや。俺は、別にいいけど何の用?』




『…あのね……』




私が口を開くとコウタは慌てて話しだした。




『ちょっと待て。…こないだのことだろ?』




『…こないだのこと?』




『とぼけんなよっ。あの…あれだよ……俺が…その…お前を……とか言った…』



…忘れてた。
モジモジ話すコウタの額に出来た、かさぶたを見てこないだの出来事を思い出した。




“私、告白されたんだ。”



『あぁ〜あれね。…あれはコウタもかなり酔ってたし。気にしてないよ。冗談でしょ?わかってるって。』



と言って私は、逃げた。




きっとコウタも
“そうだよ。冗談だよ。”って言ってくれると思ってた。




そう言って、この友情を続けてくれると信じてた。




『…違ぇよ。』




いつものコウタの声じゃない低い声…。




『冗談なんかじゃねぇ。俺、かなり酔ってたけど、マジだから。もう待つのは限界なんだ…。』




コウタは大きく深呼吸をしてまた話しだす。




『俺だって、冗談だったって、とぼけようかとも考えた。でも、もう無理なんだよ。…瑠伊の気持ちを聞かせてほしい。』




コウタの真剣な顔…。




『…そんなこと…急に言われても…私……』




『急じゃねぇよ。お前も本当は、俺の気持ちに気付いてたんだろ?』




初めてコウタに怒鳴られた。




『そんなこと…。私はこんな話をするために来たんじゃないっ。』




私も大声になる…。




『…こんな話?じゃ〜何だよ?何の話だよ。俺にはこれ以上に大切な話はねぇけどなっ。』




コウタは捨てゼリフを吐いてしゃがみこんだ。




…私はヨウスケのことを聞きに来た。
コウタはヨウスケとまだ繋がってたのか?って。
どうして、私に秘密にしてたのかてって…。
私が怒鳴ってやろうと思って来たのに…。




『…もうイヤ。コウタともこんな感じで終わっちゃうんだね…。』




真っ直ぐなコウタを見ていたら、とてもヨウスケのことは聞けなかった。




『…ドアに。…マンションのドアにキティちゃんと加トちゃんがいたから…。だから…お礼が言いたくて…。』




自分でもズルい言い訳を言ってるって分かってた。




『…お礼って。あれはお前がご当地モンはいらないって言ったから、また困らせてやろうと思って買ってきた嫌がらせだよ…。』




コウタはいつもの優しい声に戻ってた…。




『困んないよ。困るわけないじゃん…。いらないって言ってたけど本当は嬉しかった。コウタが毎回ドコに言ってたのか一目で分かって…。いつも楽しみだった…。』




自分でも驚いた…。




私の言葉に嘘はなかった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫