《MUMEI》
逃走
何かを察した雅彦が、俊彦をなだめたが、俊彦がそれを遮るように大声を上げた。


「蝶子ちゃん、このまま帰って。
兄貴、俺が抑えるから」


「え? でも…」


「その方がいいよ」


接客中にも関わらず、和馬が立ち上がって、口を開いた。


「そうそう」


孝太も立ち上がった。


孝太の客は、少し前に帰っていたので、孝太はテーブルを片付けていた。


「「「はい、走って!」」」


「あ、はい!」


私は三人に言われた通り、慌ててドアを開けて、『シューズクラブ』を飛び出した。


裏口の側に停めてある電動自転車に乗る。


その時。


店の中から、俊彦の声が聞こえた。


「蝶子ちゃんが美脚クイーンに決まってるだろう!」

―と。


(『美脚クイーン』て…あれ?!)


私は、足首にキスされていた客の姿を思い浮かべ…


ゾッとした。


それから、またしても私は、電動自転車で全速力でペダルを踏み、『クローバー』に戻った。


(あ、危なかった…)


『シューズクラブ』がいい靴屋なのは認めるが


俊彦の


あの変態の存在だけは


私はどうしても


認められそうも無かった。

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