《MUMEI》 フタリキリノ…ふたりだけの家族であるため、流理は誰にも悩みを打ち明けられずにいた。 親友と呼べるような人もいない。 頼れる大人もいない。 今までふたりで生きてきたのだから仕方のないことだった。 ――有理はどうして何も話してくれないんだ? 有理はオレに何を望んでいるんだ? 何を求めているんだ? 有理が言ってくれなきゃ何もわからない。何もできない。 オレ―…兄失格か? *** 「有希、今日は生だからね。歌もあるから、後でテープ渡すよ」 「ハイ……わかりました」 「また元気無いんだね」 「大丈夫ですよ!」 空元気だった。 悩みは尽きなくて、消えずに山のように積もってゆくばかり。 「流理………ゴメンな…。オレ…嫌なんだよ。現実をまだ受け止められないんだ。子どもなんだよ……」 ――『春日有希』になって欲しい。 けどまだ『春日有希』でいたいっていう自分がいる。 オレが何にも言わなくて、流理も困っているのがわかる。 学校に行くべきか、オレの代わりに仕事に行くべきかで悩んでいるのがわかる。 もしオレの気持ちを流理に伝えたら、きっと、優しい流理は断らない。 歩けなくなるオレに同情し、たったひとりの兄弟で、家族であるオレのために学校だって辞めるだろう。 今までのオレだったら、流理の優しさにつけこんでこの気持ちを押しつけたかもしれない。 でも今は違う。 流理の気持ちを尊重したい。 流理がどうしたいのかを知りたい。 流理にオレの分まで好きに生きて欲しいから。 伝えたい想いはあふれているのに、言葉にできない。 前へ |次へ |
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