《MUMEI》

会議は滞りなく、進んだ。杉田くんと、成原さんの進行は息がぴったりで、名波先生は委員会中ただ教室の隅で座っているだけだ。

時々、心配そうに杉田くんが私の方を見て、その視線を追っている成原さんと目が合うが、すぐに反らされた。

私は、教室の後ろにいる先生をたまに、ちらりと見たが、だいたいの確率で窓の外を見ていた。

「ら、来週の学級会で、クラスの出し物を考えようね。」
一緒に委員になった斉藤くんは、人の良さそうな感じで気を使うように話しかけてくれる。
私は笑顔で頷いた。

「では、また来週の火曜日に、集合してください。」
杉田くんがそう言って、委員会は無事に終了した。


私は教室に戻る前に、もう一度だけ更衣室のロッカーを見て回ることにした。もしかしたら、制服が戻っているかもしれない。

でもやはり制服は戻っていなかった・・・。

「やっぱりないか?」

更衣室のドアを開けると、名波先生が立っていた。
「先生・・・。」

私は肩を落とした。


父親の会社が倒産してから、母は体を崩し入院している。父は次の事業を成功させるために、昼夜なく働いていた。
私は母の実家に預けられていた。
母の入院費用も看病も、全て祖母が面倒見てくれている。優しい人だから、私が我が儘を言えば、聞いてくれるだろう。

でも私は言えなかった。

新しい学校の制服がほしいなんて・・・

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