《MUMEI》

それから、数分後私の家に到着した。ほとんど無言だった。暗いから、顔が赤くなっているのも、きっと気付かれない。


「遅くなったけど、大丈夫か?」
「はい。」
携帯を持っていれば、おばあちゃんに連絡出来たけれど、先月解約してしまった。「はい」と返事をしたがきっと心配してる・・・。

「本当にありがとうございました。この恩は一生忘れません。」

私は深々とお礼をした。
そんな頭の上で、先生は声を立てて笑っている。

「おまえ、気を使いすぎだよ。返って悪い。」
「でも、本当に助かったんです。だけど私。先生に何も恩がえしできない。」


目を見れなくて、下を向いたまま、数秒が経過した。
「広崎・・・右手を出して。」

私は先生に言われるまま、膝の上にあった右手を先生に向けて差し出した。

先生は私の手に顔を近づけて・・・その手に唇を付けた。
お姫様がされるような、あれだった。

「え?」

「体でもらったから。だからもう気を使うな。」

先生の優しい言葉と、笑顔に心が溢れ出しそうだった。私のハートは先生への想いで満たされ、ついに溢れ出そうとしていた・・・。

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