《MUMEI》
事情…
母は扇子をパタパタさせながら、ふぅーと深呼吸をして言いにくそうに…


「実は家出してきてん…」


「はぁー?いえでぇー!」


佐久間も目を丸くして驚いている。


「ちょっと!病気のお父さんを置いてきたん?」


「でも、この間退院して、今は自宅療養中やで」


母は一生懸命に言い訳をしてくる。


「自宅療養中って、完治したわけちゃうやろ!何してんねん!!」


私が一方的に責め立てると佐久間が間に入ってきた。


「病気のお父さんを置いてくるほどの事情があるんですよね?お母さん」


助け船を出された母は嬉しそうに、


「まぁ〜、佐久間さんは優しいなぁ。そうなんです。私、もう我慢できひん」


母はそう言って事情を説明し始めた…

が、要は朝から晩まで父と一緒にいると、父の小言が耳につき、耐えれなくなってケンカをし家を出てきたとのことだった。


「しょうもなっ!大したことあらへんがな…もうくだらんねん!はよ京都に帰りやっ!」


意外にも家出をした事情が普通のケンカで、余計に腹が立った。


「まぁまぁ、お母さんもせっかく東京に来たんだし、少しはゆっくりしてもらおうよ…」


佐久間が私の顔色を伺いながら言う。


「そうだ!今日は二人でドライブに行く予定なんですけど、お母さんも一緒にいかがですか?」

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