《MUMEI》
*意味*
ふと瑠果が顔を上げると、紫堂は自分のカップに紅茶を注いでいる所だった。

(‥まるで主人のような横暴振りだな‥)

第一、執事が屋敷の者と同じテーブルを囲むなど有り得ない。

(紫堂‥私は絶対に認めないぞ‥)

キッと睨み付けると、紫堂はまたしても涼やかな笑みを浮かべた。

「ここは素敵なお屋敷ですね。豊かな富を物語っている──」

「昔の話だ。今は廃れて‥」

「遺産を相続していらっしゃるのに、お嬢様は何故こんなにも慎ましい生活を?」

「金など無意味だ」

「?」

「豊かであるのは僅かな間‥。金などあっても無意味なのだ」

「──心残りがあるようですね」

「?」

「意味が無い──それは正しい事なのかも知れませんね‥‥」

紫堂は呟くように言い、紅茶の入ったカップを手にした。

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