《MUMEI》 有理ニトッテノ芸能界「しばらく退院はできないんだってさ。ずっと病院の中じゃ退屈だろ」 「あぁ……」 「外に出ない?」 「外?」 「うん。外の空気を吸いに行こう。病院の中の空気に慣れないようにしないと」 「どうせ……退院はできないよ」 有理は窓の外を見ながらつぶやいた。 「誰がそんなこと言ったんだ?わかんねぇじゃん」 「わかるよ!!」 急に強い口調になった有理に流理は驚いて口をつぐんだ。 「……オレの身体だ。オレが一番よく知ってる」 「退院…してくれないと困るよ。あんな……広い部屋にひとりなんて、そろそろ耐えられない」 「お前…いい年して何言ってんだよ」 「そういう有理は?こんな個室でひとりなんて寂しくない?」 「さ…寂しい訳ないだろ」 「そう?いいから行こう。車椅子乗るの手伝うよ」 ふたりで家以外の場所で過ごすことは、もう滅多になくなっていた。 仕事と学校でほとんどすれちがいの日々。 喜びや悲しみを共有することも最近はなかった。でも感じとれていたから寂しくなかった。 流理は車椅子をゆっくり押し、病院の庭を散歩した。 さわやかな風が吹いて、ふたりの頬を優しくなでていった。 前へ |次へ |
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