《MUMEI》 他の女とならぶん殴られても平然としていられたが昭一郎は辛い。 避けそびれた。 愛する彼女が眠る棺の前で彼女が愛する男へ接吻…… 黒い蠢き、哄めき、俺に相応しい舞台だと思う。 昭一郎の一発で幕を引く。 葬式がまるで、演劇みたいだ。 俺は役者だ。 人々が望むように演じてやれる現実にいる役者。 今日はその操り糸を切ってやった。 あんだけ演ればもう俺に皆関わらない。 一線を引けただろう。 俺は今からもう誰も知らない俺だ。 「……手加減しろよな」 殴られた頬を摩る。 明日、痣になってたらどうするんだろう。 硝子にちらりと映る頬を押さえた喪服の男は滑稽窮まりない姿だ。 これが俺か………… 前へ |次へ |
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