《MUMEI》
*不安*
「お嬢様」

「!?」

顔を上げた瑠果の目の前に、紫堂がいた。

「あ‥」

「どうかなさいましたか?」

微笑を浮かべ、紫堂はまるで何事もなかったかのように涼しげな表情をして言った。

「怪我は‥無いか」

「平気ですよ、何の心配もいりません」

「そ、そうか‥ならいいのだが」

「お食事のご用意をしましょうか」

「いや、‥もう調理場は使い物にならんだろう‥」

煤を被ったその部屋は、まるでそこだけ異空間であるかのような感覚がして、瑠果は目を背けた。

「‥‥‥‥‥‥‥」

この程度ですんだからまだ良かったものの、瑠果は無意識に不安に駆られていた。

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