《MUMEI》

「じゃ、俺の出番か」


「あんたも駄目」


「イテテテテ!」


瞳さんは私に近付こうとした、男性の耳を引っ張って止めた。


男性の手には、バラの花束。


彼は、花屋の息子の加藤春樹(かとうはるき)さんだった。


瞳さんと春樹さんは、家が隣同士だった。


「じゃあ、俺?」


「…なわけないでしょ」


瞳さんは、自分を指差すこの中で一番大柄な男性を見て、きっぱりと言った。


同じ大柄でも、雅彦は爽やか系だが、彼は…猪熊克也(いのくまかつや)は


『酒屋の熊さん』と言われるほど、顔が丸く、癒し系の優しい顔をしていた。


「いいから、あんた達はちょっと引っ込んでなさい!!」


「は〜い…」×5


五人は、昔から瞳さんには逆らえ無かった。


瞳さんは、私に近付くと…

「本当は、着替えもメイクもしてあげたいんだけど…
まだ、駄目?」


小声で確認してきた。


「すみません…」


私はまだ女らしい服装やメイクに抵抗があった。


「私はいいけど…『あの子達』がね〜」


『あの子達』


私はチラッと厨房と店内の境目から、顔を出した。


…私に手を振る三人の女性達が見えた。

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