《MUMEI》

皆が持っている紙コップは、真っ白ではなく、ピンクの桜模様が書かれていた。

よく見ると、箸の袋や、取り皿にも同じ模様があった。


きっと愛理さんが用意したんだと私は思った。


「じゃ、蝶子ちゃんから一言」


(えぇ?)


突然瞳さんから指名され、私は慌てた。


今日の歓迎会はサプライズだから挨拶なんて、考えているはずもなく…


(どうしよう)


男性陣は、呑気に『頑張れ』と声を上げる。


その筆頭は


「蝶子ちゃん、頑張って!」


「そこ、うるさい」


瞳さんに注意された、俊彦だった。


私は、仕方なく…


「ええと、皆さん、今日はありがとうございます。
すごくびっくりしました。
…これから、またよろしくお願いします」


頭を下げた。


(『嬉しい』とか言えば良かったかな?)


気の利いた言葉が出てこない自分が恥ずかしかった。

すると、皆が、口々に


「お帰り」


と言ってくれた。


(あぁ、私、帰ってきたんだな)


頭を上げ、私は笑顔の皆を見て、つられて笑った。


「それじゃ、乾杯!」


瞳さんの音頭で、私達は乾杯をした。


「「三回戦な!」」

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