《MUMEI》

祐介さんと勇さんは真剣にジャンケンをして


「やり!」

祐介さんが勝って、ホールに残り

「くそ!見てろよ! 今から蝶子ちゃんが惚れるような料理作ってやる!」

勇さんは、悔しそうに厨房に向かった。

…ちゃんと『赤岩』と書かれたエプロンを持参していた。


「蝶子、モテモテね」


「そんな事無いです」


マドンナの瞳さんには敵わないと思った。


「「「ねぇ、蝶子何でそのままなの?!」」」


(う…)


三人組が接近してきた。


すると…


「文句は、あちらに」


私の隣の薫子さんが、優雅な仕草で俊彦を指差した。

「「「と〜し〜ひ〜こ〜!」」」


「わ、何?!」


俊彦は、私に近付こうとした所を、三人組に拉致された。


(良かった)


矛先が変わり、私は安心した。


それから、話しかけてくる人達と、昔の話で盛り上がった。


「そういえば、蝶子ちゃんのお父さんはどうしてるの?」


春樹さんがバラを店内にある花瓶に分け入れて、戻ってきた。


私の父は、毎日亡くなった母の写真の前に備える花を春樹さんの店で買っていて、春樹さんとも親しかった。


「今は新しい奥さんの実家の近くにいます」

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