貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い

《MUMEI》
同じ名前の彼女
ゴールデンウィークも過ぎ去った5月、日も陰りはじめた中学校の放課後、グラウンドや体育館は部活にいそしむ生徒の活気溢れる声に満ちていた。その一方で電気もつけずやや暗い図書室で渡辺遼は今日も本棚整理に明け暮れていた。図書委員の彼からすればこんなことは日常茶飯事である。パソコンで貸し出し状況をチェックしていると一人の男子生徒が入ってきた。
「よっ、遼。今日も図書室かよ。ヒマだなー」
気軽に話しかけてきた彼は梶俊平。遼と同じ図書委員であり幼馴染でもある。
遼が言い返す
「そっちこそ普段仕事サボってばっかの癖になにしにきたんだよ?」
俊平が遼の肩に手をやる
「まーそんなこというなって。そんなことよりさ、今度ウチのクラスに教育実習の先生がくるらしいぜ」
「どうせぱっと見冴えない奴に決まってるって」
「わかんねえだろ、そんなの。あー美人の女子大生さんとかこないかなー」
「お前さ、金沢さんのこともう頭にないわけ?」
「亜佐美ちゃんはもちろん好きさ、でもそれとこれとは別だよ」
とそこへ当の金沢亜佐美が図書室へやってきた図書委員長でありながら類まれな容姿で男子からの人気も高い。俊平の片思いの相手でもある。もっとも亜佐美自身そんな俊平の気持ちは知らずいつものように
「渡辺君、これお願い」
と借りていた本を遼に渡し図書室を去っていった。
「くーーっ。かわいいよな。やっぱ告白しようかな?どう思う遼」
「好きにすれば?」
つれない返事の遼
「お前さ、少しはかわいいとか思わないの?男としておかしいぞ」
「そうかな?」
ひとり興奮の収まらない俊平をよそに仕事を終えた遼はそそくさと図書室を後にした。
学校から自転車で10分近くのところに
遼の家はある。自転車をいつもの位置に置くと遼は自分の部屋へ向かった。制服を脱いでいると1番上の姉かおりがノックもせずはいってきた
「遼、ゴキブリが出た!やっつけてよ。」
めんどくさそうな遼。
ゴキブリを退治すると遼はブックカバーをまとった本を片手に家を飛び出した。春休みにふと見つけたジャズの流れている喫茶店が遼にとって家より落ち着く場所なのだ。家にいてはせわしない家族に巻き込まれゆっくり本も読めない。そんなとき見つけたのがこの場所である。
今日もいつものようにニット帽をかぶったマスターがカウンターに立っている。
いつもは店内に客が自分ひとりのはずが今日は違った。窓際の一番落ち着く遼お気に入りの席に若い女性がひとり優雅に読書をしながらコーヒーカップを手にしていた。仕方なく不慣れなカウンターの席に座った遼。しかし心なしか落ち着かない。それはいつもと違う席だからではない。背後で本を読
む女性が気になって仕方がないのだ。
「気になるか?」
マスターがはじめて遼に話しかけてきた
「べ、別に・・・」
遼がマスターから視線を外す。
すると女性は読んでいた本を閉じ席を立った。
どうやら帰るようだ。
マスターが会計に応じる。
「見ないうちに綺麗になったね、りょうちゃん」
「ん?」
今確かに自分と同じ名前が聞こえた。
親しげな二人を食い入るように見る遼。
代金を支払うとふと彼女と目が合ってしまった。するとその女性長谷川りょうは微笑みかけながら店を後にした。


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