《MUMEI》

私は一番好きな男性アーティストのバラード曲を指差した。


「え?これ?」


和馬が驚いた。


「悪い? 好きなんだもん」

マイナーで古いけれど、いい曲だと心から思っていた。


「あ…いや」


和馬はリモコンで入力した。


曲名とアーティスト名が画面に映る。


「え?誰の曲?」

「俊彦、歌えるの?」


「だ、大丈夫だよ」


俊彦の声が震えていた。


それは、曲を知らないからではなかった。


昔から私はこの曲が大好きだったから、俊彦に何度も聴かせていた。


問題は、…歌詞にあった。

「これ洋楽だよね?!」


「え?! 俊彦英語駄目じゃん!」


瞳さんと春樹さんは中学時代俊彦と同級生だったから、俊彦の英語の実力をよく知っていた。


私も、『内緒だぞ』と言われて答案や成績表を見せてもらったが…


俊彦は、英語の成績だけは、何故か散々だった。


「だ、大丈夫。最近のカラオケは…」


言った俊彦は、片仮名の無い、英語の歌詞に絶句した。


(すごくいい曲なんだけどな…)


私は歌えないし。


この中の誰も、歌えないと思った。


その時、意外な人物が俊彦のマイクを奪いとった。

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