《MUMEI》

「うまい…」


私は、思わず呟いた。


全員が『意外な人物』の歌声に酔いしれた。


『彼』は、歌い終わると、マイクを置いて私の側に来た。


「意外な趣味だな」


「…そっちこそ」


(びっくりした)


「本当に、びっくりだよ」

私達のやりとりを聞いていた和馬が、口を開いた。

「まさか、孝太が好きな曲が、蝶子ちゃんと同じとはね」


そう。


私の大好きな曲を、初めて素敵に歌い上げたのは


普段無口な孝太だった。


「「つーか孝太の歌初めて聴いた」」


存在を忘れるなと言わんばかりに、漫才コンビが声を揃えたが…


「あっちで話さない?」


「あ…うん」


私は孝太の手を取り、咲子さんがいるカウンター席に移動した。


「話に付いてこれる奴だけ来れば?」


孝太の一言に、皆は私達を引き止めるのをやめた。


「話が済んだら戻って来てよ!」


俊彦の声が響いたが…


申し訳ないけれど


「あのアルバムの一曲目がさ…」


「そうそう、それから五曲目もいいよね。特に…」


「「合間の台詞!」」


私は初めて好きなアーティストについて語れるのが嬉しくて夢中だった。

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