《MUMEI》

にしても二人は仲いいな、話題が途切れない。
小学生のときもさぞ仲睦まじかったのかも。

「卜部は私の友達に惚れて何聞くのも全部私を使うのよ?」

「馬鹿、それを言うな!」

漫才みたいだ。

「そうだ、ヤイちゃんは?どんな子好きだった?」

唐突に振られた。

「あの、そういうのは俺知らなくて……」

恋とか、俺には無縁だ。

「嘘!鬼久保君可愛いから皆狙ってたんじゃない?」

「俺、いじめられっ子だったんで……女の子にはひっぱたかれた記憶しかないです……。」

情けない。

「ヤイちゃんの周りは好きな子ほど虐めたくなる奴らばっかりだったんだな!」

卜部先輩の根拠のない自信は何処から沸いて来るんだろう。

「じゃあ鬼久保君はまだ恋してないんだー」

「恋はいいぞ!人生観変わるな。ヤイちゃんもいつか知るんだな、身も心も蕩かす恋ってやつをー。」

偉く二人は大人びていて、これが恋をするしないの違いなのだろうか?

「ヤイちゃんはどんな人を好きになるのかな?」

「鬼久保君なら大半の人間はイチコロよねー。そしてここにも一人。」

俺の横にぺったり付いて離れない先輩を横目に副部長は話した。

「ヤイちゃんだったら虐めたくなっちゃうだろうな。自分の事その大きな瞳で見て欲しいって思うもん。」

先輩がピンをもう一本追加して前髪を押さえた。

「あ、それ可愛い!どうして前髪伸ばしてるの!」

「へ……だって見られたら緊張するじゃないですか……。」

両手で顔を覆って副部長からガードする。
視線が合うのを防ぐため、伸ばしていた。

「俺は緊張しないの?」

鼻がくっつくまでまじまじと見つめられた。

「……先輩に見られるのは慣れました!」

あまりに近かったから反射的に目を閉じてしまった。

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