《MUMEI》
18年間
「……七生は?」

朝起きたら七生が隣にいなかった。手首にうっすら掴まれた痕……
七生が居たことが分かって良かった。

「起きた途端帰ったわ。」

味噌汁の香りがして安心する。

元気になったなら一言声をかけるとか……、いや、考えてはいけないな。

……でも七生、俺を置いて行かなくてもいいのにな……とか、俺また喧嘩したいのかよ。

…………七生の家行ってみよう。

「なな君なら今止めた方がいいかもよ?」

柊荘の前で国雄さんと出くわした。
いつにも増して眠そうだ。

「あれ、煙草吸ってましたか?」

片手に微光した煙草が握られている。
灰皿も無い綺麗な部屋だったのに。

「……鋭いなあ。
心境の変化というやつかも?」

国雄さんがふーっと煙と息を吐く。
神経質に伸ばされた指が綺麗だ。



――――――ガチャーン

何かが割れる音がした。
成る程、国雄さんの言う通り行かなくて良かったかも。

「前で待っていた方が良さそうですね。」

騒がしい扉の前で腰を下ろした。

「……一本要る?」

国雄さんの手元から手品みたいに煙草が出てきた。

「……要りません。」

見上げた国雄さんは煙を纏い、怖いくらいに色香がある。

「つれないなあ」

何かあったのだろうか、国雄さん雰囲気変わった……
それでも以前と変わらず愛嬌がある。

「灰、零れそうですよ」

からかわれても俺だって軽く笑って流せるくらいは大人だ。

「二郎君、ちょっと変わったね。成長した?」

「国雄さんも、何だかより若く見えます。」

「それは中身じゃないよね?」

笑うときも話すときも何だか近所のお兄さんから色気のある男性になったみたいだ。

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