《MUMEI》

今日は体育記録会で、現地集合だ。一人で電車に乗るのは初めてで緊張する。
満員電車も初めてだ。
こんなに苦しいものだったなんて……


うちの学生もチラチラ見える。

そのなかで飛び抜けて高い位置に一つ、頭があった。
卜部先輩だってすぐに気が付く。

「せんぱ……」

言いかけて止めた。
聞こえないか流石に人込みの中では。

にしても酷いなこの密閉空間は。
人間と人間に挟まる。

「…………っ」

今なんか、不快な息遣いを感じた。

……まただ。

ぶつかってきているんじゃない……と思う。

「……ふ 」

ほら、やっぱり変……。
なんか当たるもん。

俺の尻なんか掴んで何が楽しいのやら。


…………冷やかしとかならそんなに頻繁に揉まなくてもいいじゃないか……

……嫌だ。
触らないで。



怖いよ……

「ヤイちゃん!」

人込みを掻き分けて卜部先輩が来てくれた。

「……せんぱいぃ……」

卜部先輩にしがみつく。
怖かった。

「ん?どした。」

頭をなでこなでこしてくれる。やっぱり先輩の掌は気持ちいい。
そのまま卜部先輩に甘えさせてもらった。

「ヤイちゃんに呼ばれた気がしてさ……あ、ごめん潰れてない?」

人込みで潰れないように壁際にスペースを作って卜部先輩が盾になってくれた。

「……はい、何度も。」

呼んでました。
……心の中で何度も。

「ごめん俺図体でかくて!」

会話が擦れ違っていたようだ。

「いえ、大丈夫です。」

卜部先輩がぎゅってしてくれるのと他の人がぎゅってしてくれるのは違う。

普通は離れることばかりを考えてしまうけど、先輩とはどうすれば一秒でも多く抱きしめてもらえるかを考える。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫