《MUMEI》
足が早い理由
「どこまで買えばいい?」

「三つ先」


それは、新幹線も停まる大きな駅だった。


「わかった」


私は孝太の隣で切符を購入した。


チラッと孝太の横顔を見る。


(意外とまつ毛長いな…)


俊彦のような女性も羨む美しさや


和馬のような華やかさや


雅彦のような爽やかさは無いが


孝太には、知的で大人な雰囲気があった。


「?何だ?」


不意に、眼鏡の奥の涼しげな切長の瞳とぶつかった。

「…いや、綺麗な目だなと」


「馬鹿言ってないで行くぞ」


(褒めたのに…)


孝太はスタスタと自動改札口を通り、狭いホームに出た。


先頭車両が停まる白いテープの前で、孝太は足を止めた。


「意外と足早いな」


「そう?」


「…よく和馬に女に合わせてやれと注意される」


「なるほど」


元ホストの和馬なら、相手のペースに合わせるだろうと思った。


「私は昔から…」


言いかけて、私は口をつぐんだ。


「何だ?」


「雅彦と一緒にいたからね」


孝太の質問に、私は嘘をついた。


私が足が早いのは


『待ってよ! 俊兄!』


毎日のように、俊彦を追いかけていたからだった。

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