《MUMEI》 静かで新鮮当時を知らない孝太は、私の嘘の理由で納得したようだった。 ホームで待つこと五分。 三両編成の、短い電車がやってきた。 平日の昼間だから、車内には人が少なく、私達は、四人がけのボックス席に向かいあって座った。 目的の駅まで、約十分。 孝太は無言だった。 (まぁ、いいか) 私はずっと景色を見ていた。 普段賑やかな人達に囲まれているから、こういう静かな雰囲気は新鮮だった。 「降りるぞ」 「うん」 電車が目的の駅に着くと、孝太はまた同じペースで歩き始めた。 …黙々と歩く。 私は、少し後ろから付いていく。 孝太の背筋は真っ直ぐで、歩き方も綺麗だった。 だから私は思わず 「孝太さん、綺麗な歩き方だね」 と後ろから声をかけた。 ピタッ 「わ、びっくりした!」 私はもう少しで孝太の背中にぶつかるところだった。 「それはこっちの台詞」 孝太が振り返る。 「俊彦と同じ事言うんだな」 「え?」 戸惑う私を無視して、孝太はまた歩き出した。 「どういう事?」 「言った通りだよ」 そして、孝太は細い路地へと入っていった。 「ここ」 前へ |次へ |
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