《MUMEI》
母の思い
私が席を外したのを良いことに、母はまた佐久間に話し始めていた。


「佐久間さん聞いてください。さっきも少しお話しましたけど、私も主人も愛加が幼い時から仕事で留守がちやったんで…あの子には本当に寂しい思いをさせました…」


さっきとは打って変わって真剣な母親の口ぶりに佐久間は少し驚いていた。


「一番愛情を受けるべき時期に親が留守がちやったせいか・・・気づけば愛加は私たちに背中ばかり向けるようになっていました…」


母の表情は少し悲しげになった。


「私が店を閉めて専業主婦になっても、あの子は何も話してくれへんし感情も表すことが少なくって・・・
恥ずかしながら愛加の友達の名前すら知らへんのですよ、私・・・」


そして母は少し涙ぐむ。


「親の義務も果たさずに、こんなこと言うのもなんやけど、やっぱり心配なんです。自分の娘やから・・・」


母は少し黙ってから続けた。


「佐久間さん、愛加のこと本当によろしくお願いします!気は強いし口は悪いけど、ホンマは人一倍の寂しがりで愛情を欲してる子なんです!」


「お母さん、分かってますよ。僕が愛加さんを幸せにしますから、安心してください!」


その佐久間の返事を聞いて母はホッとした顔をした。


「佐久間さんみたいな素敵な人が側にいてくれはって安心やわぁ〜」


「いやぁ〜」


佐久間は照れて頭をかいている。


「せやけど、あれ、佐久間さん違いましたか?あの子は違う言うてたけど・・・」


「は?あれとは・・・?」


「三ヶ月前に私の主人が入院して愛加が京都に戻った時、電話でケンカしてませんでした?」


「え・・・」


佐久間が戸惑っていると、


「あ、愛加が戻ってきたんで・・・」



そして私が席に戻ると母がそわそわしているのが分かった。


「お母さん、また佐久間さんに変なこと言ってないでしょうね!」


「言われたらまずいことでもあるの?」


母はしらばっくれる。
そして急に、


「私、今から京都に帰るわ。佐久間さん見てたら、お父さんに会いたくなった。じゃ、東京駅に行こか!」


そう言って、新幹線に乗ってトンボ帰りしたのである。

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