《MUMEI》 憐の正体。コウタの話を聞いてからの私は、ここ数日間バイトが終わると直帰して、ずっと携帯を握り締めていた。 …結局、ヨウスケからの連絡はなかった…。 一週間が過ぎ、ヨウスケはもう東京に帰ってしまったんだと諦めた。 『憐。おかわりぃ〜。』 それからの私は毎晩遅くまで憐の店で飲み潰れてた。 『もうやめとけって。』 『うるさぁ〜い。早くお酒持って来〜い。』 『いい加減にしろよ。明日も仕事だろ?そのくらいにしないと明日まで酒残ってバイク乗れねぇぞ。』 『ま〜た、憐のお説教だ。ふぅ〜んだ。残念でした。私はもうバイクには一生乗らないって決めたんですぅ〜。だからいいの。』 『瑠伊、本気で言ってんのかよ?バイクはすげぇ大切なんだろ?いいのかよ、そんな、なげやりで。』 『いぃ〜の。』 そこからの記憶はない。 目が覚めるとお店の二階の憐の部屋で寝てた。 『大丈夫かよ。酔っぱらいさん。』 そう言って、私の顔を覗きこんでる憐がヨウスケに見えた。 “そうだ。憐はヨウスケに似てる。顔も雰囲気も声も…そっくりだ。そして何よりも優しい…だから好きになりかけた…。” …ダメだ。 まだヨウスケの後遺症が…。帰らなきゃっ。 『…ゴメン。帰るね。』 ふらついた私を支えた憐。 『待て。大切な話がある。今、コウタも呼んだ。もうすぐ来るから待ってろ。』 …ん? 私まだかなり酔ってる? 今、コウタって言った? 『…?なんで憐がコウタのこと知ってんの?コウタは店に来たことないじゃん。』 『…あぁ。ま〜黙って待ってろ。』 憐の口調が怖くて、言うとおり黙ってた。 程なくしてコウタがやってきた。 『憐さん。すいません。俺、瑠伊にヨウスケの事しゃべっちまって…。』 『あぁ〜みたいだな。まぁいいから、とりあえず入れよ。』 私は状況が全く分からなかった…。 コウタは私に近寄ってきて飽きれた顔で言った。 『何やってんだよ。お前、憐さん困らせて…。』 『…何が?憐さんって何?なんでコウタと憐が知り合いなの?訳分かんない。』 『あのなぁ〜。お前、よく思い出せよ…。憐さんの店に初めて来た日のこと。』 …初めて憐に会った日? …たしか 私が初めて憐の店に来たのはヨウスケと別れ話をした日だった…。 …3年前。 『今から話がある。』 と、いきなりヨウスケに呼び出された。 昨日までは、いつもどおりで普段と変わらなかったのになぜか胸騒ぎがした。 『こんなお店初めてだね〜。ヨウスケは、ここ、よく来るの?』 『…まぁ。』 そう言って連れて来られたのが憐の店だった…。 …静かな店内で私はヨウスケにフラれたんだ。 ヨウスケは私をフッて、先に店を出ていってしまった。 ひとりぼっちになった私は閉店までずっと泣いてた。 まだ泣き止まなくてヒクヒク言ってたけど、もう閉店だし、店員さんの目も気になって、そろそろ帰ろうと立ち上がった時… 『閉店の準備に時間かかるからまだ居ていいよ。』 と言って、そっとティッシュを持ってきてくれたのが憐だった…。 『…そうだ。私、ヨウスケに連れてきてもらったんだった。』 『やっと思い出したか?』 コウタはまた飽きれた顔。 『…もっ…もしかして憐って、ただの店員じゃなくて、ヨウスケの知り合いだったの?』 『イエス。』 コウタは得意顔。 憐はうつむいたまま黙って頷いた。 『そんな…私、すごく恥ずかしいじゃん。何にも知らないで常連にまでなっちゃって…。』 『驚くのはまだ早いっ。』 コウタは偉そうに言った…。 『待て。コウタ。…俺が話す。』 憐はコウタが話しかけたのを止めた。 『…瑠伊。 今まで黙ってて悪かった。 実は…俺…ヨウスケの兄貴なんだ。』 前へ |次へ |
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