《MUMEI》 私はすぐに目当てのCDを購入した。 「お嬢さんが生まれる前の曲ばかりだろう? 誰か身近に洋楽好きでもいたのかい?」 「はい…あの」 私は少し間をおいて、 「亡くなった母が」 と答えた。 店長は少し驚いた顔をしたが、 「そうか」 とだけ言った。 私は母の事をあまり覚えていないが、母が洋楽が好きだった事は忘れていなかった。 父の話によると、母は私がお腹の中にいる時も、洋楽を聴いていたらしい。 母の遺品の中に、洋楽のレコードやCDがいくつもあり、私は母が亡くなってからも、自然とその音楽を聴き続けていた。 「…いい趣味だな」 孝太がポツリと言った言葉に、私は無言で頷いた。 「うちには、試聴コーナーなんて上等なものは無いが… よかったらリクエスト流すぜ」 店長が店内のスピーカーを指差した。 「え、でも…」 私は嬉しいが、孝太は予定があるかもしれない。 「俺も聴きたい」 「…じゃあ、…これ、お願いします」 私は、悩みながら、一枚のアルバムを店長に手渡した。 「はいよ。座りな」 店長は、店の奥から丸椅子を二つ持ってきてくれた。 前へ |次へ |
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