《MUMEI》
*特別*
(紫堂‥?)

瑠果は左右を見渡して紫堂の気配を探ろうとした。

長い廊下の向こう──その突き当たりが、紫堂が待機する執事部屋になっている。

だが紫堂が向かったのはそこではなく、反対側にある空き部屋だった。

そうと知らない瑠果は執事部屋の扉に耳を当て中の様子を窺っていたのだが、突然後ろから声がして振り返った。

「どこへ行っていたのだ?お前がなかなか戻って来ないから様子を見に来たのだぞ?」

「すみません、ですがもう暫く広間で待っていて下さい」

「分かった‥。だがあまり煩わせるな。気になって仕方が無い」

「畏まりました」

紫堂は頷き、踵を返した。

ある準備をする為に。

(紫堂は何がしたいのだ‥?)

今日が自分にとって特別な日であるという事に、瑠果はまだ気付いていない。

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