《MUMEI》

孝太は中央通りにある創作料理の店に入った。


(高そう…)


高級な雰囲気に、私は戸惑った。


店内は、全て個室になっていた。


…昼間に来る店とは思えなかった。


お茶とおしぼりを運んでくる店員も、上品な感じがした。


私は、恐る恐るメニューを見た。


「あれ?」


思わず声が出た。


「意外と安いだろ?」


孝太の言葉に私は頷いた。

メニューは昼のお任せコースが三種類で、一番安いのは千円だった。


「夜は高いけどな」

「よく知ってたね」


こんなお得な店。


「俺の常連だから、ここの女将」


「あぁ…」


納得。


「孝太さん、よくいらっしゃいました。

…和馬さんも」

「俺、おまけ?」


和馬がおどけた。


「いいえ、そんな。
…こちらの方は?」


(うっ!)


女将の目が鋭く光った…気がした。


「店長の幼馴染み」


「まぁ、それじゃあ、仕方ないですね」


『貴重な休みに無理矢理付き合わされて、可哀想な孝太さん』


…女将の心の声が私にははっきりと聞こえていた。


「ご注文は?」


女将は孝太だけを見て言った。


「孝太、俺、魚はパスな」

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