《MUMEI》

「…だそうだ」


「わかりました」


「蝶子。好き嫌いは?」


(名前で呼ばないでよ)


女将の視線が痛かった。


「蝶子?」


「…無い、です」


「じゃ、俺と同じで」


「かしこまりました」


(こわいよ〜!)


女将の目は笑っていなかった。


「名前で呼ぶの止めて下さい」


女将が出て行った後、私は孝太に頼んだ。


…ついでに


「和馬さんも」


今後の事を考えて、私は和馬にも頼んだ。


「何故?」


「何で?」


(わかってるくせに…)


女将のあからさまな態度が、この二人にわからないはずはない。


「どういうつもりですか?」


嫌がらせにしては、タチが悪い。


それに、嫌がらせをされる理由もわからなかった。


「まぁまぁ、そうカリカリしないの」


「誰のせいだと…」


「まずは飯。話は後」


孝太はそれっきり口を開かなかった。


それから…


見た目にも鮮やかな和風の料理が次々と運ばれてきた。


和馬の料理は、洋風の要素も入っていた。


…料理人の悲しい性というべきだろうか。


気が付くと、私は、不覚にも料理に夢中になってしまった。

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