《MUMEI》

和馬は悔しそうに言った。

(そりゃ、プライドも傷付くわよね)


俊彦は、田舎から出てきて、成り行きでホストになったのだから。


そんな俊彦がずっとナンバーワンでは、和馬でなくても悔しいだろうと思った。

「…で、何でこっちに?」

「店長に、『アゲハ連れ戻してこい』って言われて、追いかけてきたんだ。
俺も、勝ち逃げなんて許せなかったし」


アゲハは俊彦の源氏名だった。


「なるほど。…で、何でこうなってるの?」


連れ戻すどころか、和馬は、『シューズクラブ』に馴染んでいた。


嫌々やっているようにも見えなかった。


「いや〜、それがさ。俊彦を、毎日説得してたらさ、逆に靴屋について熱く語られてさ。

しかもあいつ、ホストクラブでの経験をいかした変な靴屋作るとか言い出してさ」


『変な靴屋』


「それって…」


「そう。会員制で予約制・女性の足をより美しく魅せるのが目的の、靴屋。

つまり

『シューズクラブ』だよ

いや〜、あいつ、面白いよね」

和馬は笑った。


「で、何でそんな変な靴屋に?」


「だって、面白そうじゃん。

ムサイ男共の相手しなくていいし。

それに、何て言うか…」

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