《MUMEI》
*旋律*
「よし」

瑠果は譜面を裏返すと、オルガンの上に置いた。

どうやら完全に暗譜したらしい。

「1度きりだからな」

そう言って瑠果は椅子に座り直す。

華奢な指先が、鍵盤に触れた。

第一音。

一拍の間を置いて、伴奏が始まる。

流れるようにゆったりとしたミサ曲。

右手の紡ぐ旋律に、左手の和音が重なる。

次第にそれは哀愁を帯び、咽び泣くように震え出す。

訴えて来るのは、苦悩、不安。

すると再び調が戻り、今度は優しく語りかけるように響いてくる。

高音が囀りのように歌い、低音がそれに続く。

最後の小節が終わり鍵盤から指先が離れると、その音は柔らかな余韻を残して消えた。

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