《MUMEI》

「先生が、おまえの名前は光でそれ以上でも、それ以下でもないんだ。って言ってくれて・・・。苗字は選べないけど、名前は選ばれて付けられてるだって・・・。だからそれ以来、だいたい名前で呼ばれてるかなぁ。」

そんなエピソードが、また私の胸を熱くさせた。

「優しいね。」
独り言のようにつぶやいた。
でも・・・じゃあなんで諦めたんだろう。

「なんで、リスペクトになったの?」

光は百花の顔を伺った。話すか話さないかを躊躇っているようだった。

「先生はね。私たちが自分に気があるとわかると、途端に冷たくなるの。」
百花が重い口を開いた。

そういえばさっきも、宏美が明日の計画を提案したと聞いたら、すぐに却下していた。

「先生が気を持たせるようなことしてるんじゃないの?そんなのひどい。」

「そうかな?先生にとってはきっと、当たり前のことをしただけなんだよ。励ましたり、支えてくれたり。それを私たちが勘違いしてるだけで・・・。」

強い口調で反発したが、百花は諭すように言い返した。

「私まだ、好きかどうかわからないよ。」

すごく好きな部分と、否定的な部分が心の中で戦っている。

「今日見てて思ったけど、先生・・・。奏のことは特別な気がする。」
光がボソッと言った。


特別・・・何が?

別れ際に言った光の言葉が、耳から離れなかった。

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