《MUMEI》 私は、俊彦に送ってもらい、当時父と住んでいた社宅に戻ってきた。 父は、明日にならないと帰って来ない。 『咲子さんに来てもらおうか?』 私は首を横に振った。 『じゃあ、瞳か薫子に…』 『俊兄がいい』 私は俊彦のブレザーの裾を掴んだ。 『あのな、蝶子』 『恐いの。一緒にいて。お願い』 私は涙ぐみながら俊彦に頼んだ。 『あのな…俺も一応男なんだぞ? もう昔みたいに子供じゃないんだから、…な? やっぱり咲子さん呼んで来るから』 『嫌! 一人にしないで!』 私は出ていこうとする俊彦の背中にしがみついた。 『蝶子…』 俊彦は振り返り… 優しく私を抱き締めた。 その時。 バサッ (…ん?) 何かが落ちる音がした。 それは、俊彦が持っていた封筒だった。 落ちた拍子に、中身がチラッと見えた。 『…? 蝶子?』 俊彦が、腕の中にいる私を見つめた。 私の視線は、封筒の中身に釘付けになっていた。 『わ!』 俊彦が慌てて私の腕をほどいて、封筒の中身を隠そうとした。 だが、もう遅かった。 私は、しっかり見てしまったから。 『何で?!』 前へ |次へ |
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