《MUMEI》 選択権無し孝太の言葉に私はドキリとした。 「話とか…」 「それは、大丈夫だ。もし聞いてたとしても、あれで女将は口が堅い」 (本当かな…) 私はそれが孝太限定でない事を祈った。 「あ、お金」 「必要無い。いい曲も、いい話も聞かせてもらった」 「そうそう」 つまり、おごってくれるらしい。 「…ありがとうございます」 私は一応お礼を言った。 (かわりに、明日の弁当サービスしよう) そんな事を考えていると、女将がお釣りと領収書を持って部屋に戻ってきた。 「またいらして下さいね」 一応、全員に向かって女将は言ったが、その視線は孝太に向いていた。 「ねぇねぇ、蝶子ちゃん。 俺と孝太、どっちが好み?」 「急に何ですか?」 和馬の質問は、本当に突然だった。 「いいじゃん、どっち?」 (そう言われても…) 女将のいる状況で、私に選択の余地は無かった。 「…和馬さん、ですけど」 「まぁ、お似合い」 女将がすかさず言った。 「やっぱりな〜、じゃあ、今度俺とデートしようね!」 「は?!」 (何、急に?!) 「おい、和馬」 「まぁ、素敵ですね」 前へ |次へ |
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